概念についての一般的な話

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すべて違う種類のイスでも我々が「イス」と認識できるのは,概念のおかげである

本稿の扱う範囲

概念」とはなにか,と聞かれてすぐに答えられる人は,なかなかに鍛えられているとおもう.すくなくとも,自分は少したじろぐ.

哲学や言語学,論理学などの世界でよく登場する「概念」という言葉は,何気なく使われているが実はなかなかむずかしい.しかしこの「概念」こそが,言語を考える際の重要なテーマになっているので,避けては通れないのである.

そこで,概念に関する様々な議論や知見はまた別に扱うとして,本稿はより一般的な解釈についてまとめてみる.

内包と外延

では,まず,どういうときに「概念」という言葉使われているのか.

たとえば,「果物」という概念について考えてみる.「果物」とはなにか.

「果物」とは(辞書的農林水産省的には)「食用になる果実や果実的野菜」だ.

いっぽうで,このようにも答えられないだろうか.「果物」とは「『リンゴ』や『ミカン』や『モモ』や,時々『スイカ』も果物と呼んでいるけれど,まあそういうもの」.

前者のような辞書的な答えは,概念の「内包」という.いっぽう,後者のように様々な具体的な果物の名前を列挙していく答えを,概念の「外延」という.

内包は,概念が共通してもっている性質のことだ.外延は,その概念に具体的にどんなものがあるを指す.

数学での内包・外延

頭が痛くなるような話で申し訳ないが,この内包と外延は,むかし授業で習っているかもしれない.数学では,集合の授業で扱っている.

たとえば,内包では,「10未満の正の偶数」全体の集合は,

{ x | x は 10 未満の正の偶数 } と表すことができる.

ではおなじく「10未満の正の偶数」の外延は,

{2, 4, 6, 8} と表すことができる.

それぞれ表記が七面倒臭くみえるだけで,前項で示した定義比べると,内包と外延の意味が,大きく変わらないことが確認できるだろう.

言語学での内包的意味・外延的意味

言語学における「内包的意味」と「外延的意味」という用語は,これまでの内包・外延の定義とは違うので注意が必要である.

たとえば,「犬」のイメージは{愛くるしい,従順,人懐こい,癒やされる……}などを挙げられるとすれば,これらが内包的意味とされる.

いっぽう,「犬」の辞書的な意味や状況に依存しない{哺乳類,イヌ科の動物,歯は42本……}などは外延的意味となる.

概念とカテゴリー

「果物」のたとえばなしに戻ろう.

われわれは,すくなくとも「果物」と「食肉」が違うことがわかる.「果物」 には「果物」の,「食肉」には「食肉」の,それぞれに共通の性質があることを認識するから分類カテゴライズするわけだ.

そう,もう一度言おう.分類するということは,それぞれに共通の性質(内包)を見出しているということだ.言い換えれば,カテゴリーの内包は概念だということになる(Cf.認知科学辞典).

カテゴリーの役割としては主に2つ考えられる.

  1. 記憶の効率性・経済性のアップ
  2. 推論や学習の効率性アップ

まず一番目の記憶について説明しよう.共通した性質を持つもの同士を集めてカテゴリーを作ると,個物ひとつひとつを覚えなくとも良いので,極めて簡単に記憶が可能となる.たとえば犬を想像してみよう.マルチーズやらゴールデンリトリバーやら柴犬やら,たくさんの犬種を,もちろんそれだけでなく,一個体ずつ「ポチ」だの「コタロウ」だの「マロン」だのと,なんのカテゴリーも与えずに覚えることは,ほぼ不可能にちかい.そこで,一言「犬」とカテゴリーを作れば,あっという間にわれわれは記憶できる.

次に二番目の推論と学習について.カテゴリー化するとき,われわれは共通の性質(内包)を想定している.この内包を用いることで,まだ経験したことのない事例についても,内包から推論することができる.たとえば,

  1. 犬は乳を飲む
  2. 犬と猫は哺乳類だ
  3. よって猫も乳を飲む

このような推論が可能となる.この機能は,小児期での研究でも明らかになっており,Imaiらは,子どもたちは,ある未知の事物にラベルを付与すると,その事物のみではなく,それと似た事物にも自発的に同じラベルをつけることを見出した(Imai, 1997).

もちろん,カテゴリー化にはメリットだけではなく,デメリットも存在する.それはメリットの裏返しでもあり,一派一絡げにしてしまうことで個別性を無視してしまったり,あるカテゴリーについて偏った見方をしてしまったりする可能性はある.

それにしてもこの機能は偉大ではあるのだが,しかし,そもそも果たして,どうして我々はカテゴリー化できるのだろうか.この疑問をわかりやすく言い換えれば,どうしてわれわれは,「似ている」ことを認識できるのだろうか.

この点はまた別に,今度書いていこうと思う.

Jun Nishimura

言語聴覚士(ST)をしています.STに関する資格としては,認定言語聴覚士(失語・高次脳機能障害領域)やLSVT LOUD認定療法士,福祉住環境コーディネーター2級などありますが,基本的に本や音楽,映画や自然が好きな鑑賞家です.